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朱いお花畑と白い蛇 その四

前回のお話

https://seaknow.xyz/serialstory/nekonote/975/

 

その四

 ソラは、古ぼけた板張りの間に丸くなっていました。あくびをして伸びををすると、体がぽよんと跳ねました。しっぽをぐーんと伸ばすと、体がころんと転がりました。そのまま見上げると、角と手足の生えた大きな大きな蛇が天井いっぱいにぐるんと描かれていました。ソラはもう一度、手足を思いっきり伸ばそうとして、

「あれ?」

ないのです。手がありません。

ついでに、足もありません。

「うわあ、びっくりした!」

ソラは思わず跳び上がりました。体はぽよんと跳ねました。そうでした。蛇に手を貸したのでした。ついでに、足も。ソラは文字通り、丸くなっていたのです。

 ソラはこてんと転がって起き上がりました。ぽよぽよ跳ねると前に進みました。なるほど、手がなくとも足がなくとも、何とかなりそうです。そもそもソラの手は、あんまり役に立っていなかったのですから(何でも屋さんのお仕事は失敗してばかりです)、無くても大丈夫かもしれません。ソラは蛇の上手に動く様子を思い描いて、ちょっと見習わなくっちゃ、と思いました。

「目が覚めたか、お前!これを何とかしろ!」

カンカンカン!と警鐘を鳴らすように、蛇の声が響きました。何事かと振り返ると、そこにはあの蛇が・・・

「君は、龍になったの?」

蛇は、美しく輝く珠を抱えていました・・・その手足に!それは、

「あっぼくの手!と、足!」

 蛇の体には、猫の手と足が生えていました。白く光る鱗に、やわらかな毛の青い猫の手。蛇は、その手足で夢中になって珠を回していました。まるで仔猫が毛糸玉にじゃれつくように。珠は蛇の足で蹴られて、ころころと転がりました。

 それを見ると、ソラはもういてもたってもいられません。だって、猫ですからね。転がる珠目がけてジャンプ!ぽよんぽよん弾んで追いかけました。が、それよりも速く、蛇が珠に飛びつきました。珠を抱えて猫パンチ猫キック、転がって、また飛びついて猫パンチ猫キック、転がって・・・

「手が、勝手に・・・!」

蛇は叫びます。しかしソラもそれどころではありません。手も足も出ないので、珠と一緒に転がります。もはやソラ自身が珠です。いや、むしろソラでなくタマです。そして蛇はタマに、いえ、ソラに、飛びかかってきたではありませんか。ソラを抱えて猫パンチ猫キック、転がって、また飛びついて猫パンチ猫キック、転がって・・・

「タマ!何とかしろ!」

「ぼくはタマなのー?」

✴︎

 慣れない体でひとしきり転がり回った後、2匹はくったりと座り込みました。ソラは何だか、2倍疲れたような気がしました。蛇は割れた鐘のような声で言いました。

「手があっても足があっても、なかなか龍にはなれないものだな」

「ぼく、あんまり役に立たないんだ・・・」

ソラはしょんぼりと言いました。蛇はあわてて、

「そんなことはない。わたしは生まれて初めて地を駆けるという経験をした。持つ、ということも知った。今まで手足を使ったことがないのだから、慣れていないだけだ」

「そうだ!」

ソラは名案を思いついてぽよんと跳び上がりました。

「練習をすればいいんだよ!」

 

(続く)

 

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