第一章 龍神さまの紅い実 その五
前回までのお話
みーこは動けませんでした。目の前に現れた龍神さまをただ見つめるばかり。
ふと、その紅く光るふたつの目の向こうに、もうひとつ何か見つけた気がしました。枝の先に、まあるく紅く輝くそれは・・・
「ヒツキの実にゃ」
みーこは龍神さまの体を渡って、駆け寄りました。恐る恐る手を伸ばすと、それはみーこの手の中でぴかりと光りました。
「これにゃ・・・これにゃこれにゃ、みつけたにゃん!!」
みーこは大喜びで、首の袋に入れようとして、
ぽろっと。
「はにゃ?」
手を滑らせ、落としてしまったのです。
「はにゃーーー!!」
大慌てで拾いに行こうと振り返ったところ、
「はにゃ・・・」
そこには、息を飲む美しさで、枝中に真っ紅な実が輝いていたのでした。みーこはあまりの美しさにただただ呆然と眺めていました。
と。
ぐわん。
と。
世界が揺らめいたようでした。
「はにゃ?」
どうしたことでしょう!真っ赤に輝いていた実が、見る間に消えていくではありませんか。
「たいへんにゃ!たいへんにゃ!」
みーこは大急ぎで実を摘んで、袋に入れました。いくつも摘まないうちに、あんなにたくさん成っていた実は、もうひとつも無いのでした。
「はにゃー・・・」
空と海の間から、お日さまが昇りきったところでした。
「りゅーじんさま・・・」
その姿も、もうありません。そこには松の木が、当たり前のように枝を伸ばしているだけでした。
みーこはそろそろと木から降りました。袋をのぞいて、数を確かめようとしたときです。木の根元に、赤く光るものを見つけました。みーこが取り落としてしまったヒツキの実でした。
みーこはそれを手に取りました。お腹がきゅうぅんと鳴りました。
「うにゃ」
袋の中身を確かめてみました。ひぃ、ふぅ、みぃ・・・にゃにゃ・・・
「にゃにゃつもあるのにゃ」
みーこは手に持った八つめの実をじいっと見つめました。そして、パクリとかぶりつきました。口いっぱいに甘酸っぱく何とも言えない美味しさが広がります。
「にゃーんと!おいしいのにゃ、おいしいのにゃ・・・」
みーこは涙ぐみながら、もぐもぐとほおばりました。果汁が口の端から肉球の隙間から滴り落ちました。足の下から身体中に力が駆け巡っていくようでした。
みーこはぺろりと口のまわりをなめて、枝を見上げました。松の木は潮風を受けて、サラサラと揺れていました。
(続く)