朱いお花畑と白い蛇
その一
「ここはどこだろう?」
ソラは、辺りを見回してはっと立ちすくみました。
✴︎ ✴︎ ✴︎
大嵐の後、ようやく涼しい風の吹き抜けた朝でした。金色の朝日に照らされて、空はどこまでも高く昇っていくようでした。青い猫のソラは、いつものように朝のパトロールに出かけました。
ソラは、都会から忘れられた野原で小さなお店を開いています。「ねこのてかします」という何でも屋さんです。一生懸命お手伝いするのに、なぜかいつも失敗ばかり。なかなかうまくいかないのですが、それでも帰ったらすぐに看板を出さなければいけません。ソラは急いで通りを渡り、野原の前の公園へ向かいました。
ふと、目の前を何かか横切りました。トンボです。ちょっとジャンプすれば届きそうなところに浮かんでいます。ソラがそちらを向くと、ついっと飛びます。一歩近づくと、さっと逃げます。まるでこっちへおいで、と言っているかのように。
トンボは、公園の木々の間をジグザグと飛んでいきます。斜めに差し込んだ朝の光で、羽根がキラキラ光ります。と、あちらに2匹、こちらに3匹。そこいらじゅう何匹も飛んでいます。ソラは夢中になって、どんどん追いかけていきました。
木の根元に、朱い花がちらほらと咲いています。大きな木がどこまでも続いています。あれ、こんな大きな木あったかしら・・・
✴︎
「ここはどこだろう?」
ソラは、辺りを見回してはっと立ちすくみました。
瞬間、真っ赤な世界が目の中に飛び込んできました。見渡すかぎり一面、朱いお花畑が続いていました。朝日を浴びて、花はまるで萌える炎のようでした。
ソラはしばらくの間、呆然と立っていました。赤いトンボが音もなく浮かんでいます。朱い花が足元で揺れています。縮れながら細くカールした花びら、猫のひげのようにくりんと長いおしべ、すっくりと伸びた茎のてっぺんに、花は篝火のように揺らめいています。
「ここはどこだろう」
ソラはもう一度、声に出して言ってみました。応えるものはありません。前にも後ろにも朱い花、ずっと続く木立、差し込む光、飛び交うトンボ・・・見上げると枝の隙間からチラチラと青い空が見えました。どちらから来たのでしょう。仕方がないので、ソラはそのまま歩いて行きました。
と、朱いお花畑の中に白く光る一角がありました。ぽっかりと花が途切れ、光が差し込んでいるのです。トンボが群れています。近づくとトンボはパッと散りました。そこには・・・
(続く)
毎週水曜日朝7:00更新!