キャプテンみーこの空とぶ舟
第一章 龍神さまの紅い実
その二
前回までのお話はこちら
さてどうしたものでしょうか。こんな奇妙な出来事、見たことも聞いたこともありません。
お医者に診せてもわかりません。祈祷師にお祓いしてもらっても治りません。人に聞いても古文書を探しても、何もでてきません。おばあさんもみーこも、困り果ててしまいました。
そんなある日のことです。おばあさんは旅の薬売りからこんな話を聞きました。
「どんな病もたちどころに治してしまう、摩訶不思議な薬があるという。遠く龍神さまの島に成る伝説の紅い実。その名を”ヒツキノミ“と言う」
「けどおじいさん。どこにあるんでしょうかねぇ、龍神さまの島なんて」
おばあさんはおじいさんの桶の前に座って、ほうっとため息をつきました。みーこはおばあさんの膝でむにゃむにゃ言いました。
「みーこが探しにいくのにゃー」
「あれみーこ、あんた何か言ようるんかいね」
「ぐるぐるうにゃにゃー・・・」
「あんたが喋れたらねぇ、ちいっとは慰みになったのにねぇ・・・」
おばあさんはみーこを撫でると、もうひとつため息をつきました。
✴︎ ✴︎ ✴︎
不意に、桶からあぶくが立ち上りました。そしてそこにおじいさんが現われたのです。
「おじいさんにゃ!」
みーこは嬉しくなっておじいさんに飛びつこうとしました。ところが体がうごきません。
「みーこ、すまんのう、おまえに頼みがあってのう」
おじいさんはそう言うとてのひらを差し出しました。そこには小さな白い竜が一匹、乗っていました。
「わしが過って食ってしもうた、龍神さまのお使いじゃ」
「はにゃー!」
チビ竜はみーこの頭の上に登ると尻尾をべちんと鳴らしました。
「まーもう散々だわ、みーこおみゃーさん、なんとかしてちょー」
「はにゃー?」
「薬屋が言うとったじゃろ、ヒツキの実」
「親さまの島なんだわ、ヒツキミの地。お日さんとお月さんを一番最初におがめるところ、東のはしっこの島、始まりの地」
「はにゃー」
「親さまは始まりの龍神なんだわ。ヒツキミチは、はじまりであり、うまれるところ、ありのままであること」
「はにゃ・・・」
「じいさんにヒツキの実を食わせろ。元に戻る。俺も元に戻る」
「は・・・にゃ・・・」
みーこはなんだかぼんやりしてきました。おじいさんが慌てて言いました。
「わしの舟を使やぁええわい、工房の一番奥にあるけえの」
「にゃ・・・」
「俺もついてくでよ」
そしてみーこは眠ってしまいました。
✴︎ ✴︎ ✴︎
みーこは目を覚ますと舟を見に行きました。なるほど、工房の一番奥には古い小さな舟がありました。あつらえたようにぴったりでした。
「みーこの舟にゃ!」
みーこはぴっと爪を出すと、舟底に印をつけました。
家に戻ると、おばあさんはおじいさんの桶の前に座っていました。おばあさんはみーこをだきあげると、
「みーこや、あんたはなんかわかっとるんかねえ」
みーこは、行ってくるのにゃ、と言いました。
「ほうかね」
おばあさんは、みーこをぎゅうぎゅうっと抱きしめました。桶の隣にはおむすびの入った包みが置いてありました。
(続く)