もののけのこと

高校の頃から使っているモノがある。

金属製の、花柄のシャープペンシルだ。
アーケード街の小さな文房具屋さんで買った記憶がある。
当時から(というよりむしろ、物心つく前から)ずっと絵は描いていたが、
きっとこの頃はこれで勉強もしてたと思う。
引越しを繰り返しても、捨てること無く、まだペン立てに座している。

触る部分は、すっかりプリントも剥がれてしまった。
今主流のシャーペンよりもずしっと重く、ひやりと冷たい。

「どうしてこれを使ってるんだろう？」

理由はわからないのだが、もう長年連れ添った戦友みたいなものだ。
ほとんど何も、戦わずしてきたけれど。
今わたしの使うのは主に2Bのえんぴつだから、少しご無沙汰なのだけど。
それでも、絵を描くときはふと手に取る。

「やあ、久しぶり」

そんな声も聞こえる気がする。

日本には古くから妖怪がいた。
長く使われ、そして永く、忘れ去られたモノたち。
モノがバケるから、モノノケ、物の化、だ。
まだこのこは、30年足らずだから、しかもまだここに形を留めて居るから、
モノノケにはなっていないだろう。
だけど、モノノケ予備軍はいっぱいいる。
物、だけじゃない。
人の想いや思念から生まれたモノノケも、それこそたくさんいるではないか。
それこそ、そっちの方がずいぶん得意で、わたしの中にもとりまきにもきっと無数に産んでいると思う。

忘れられてしまった「もの」や「おもい」たちは、少し哀しい。
だから時々、掘り起こす。
心の掘り起こしは、辛くて痛くて、けれども愛おしい。
物には、くっついた想いも一緒に引っ張り出すから、やっぱり重い。
本や写真なんて、なおのこと。
母や、祖母からもらった着物も、同じだ。
そうやって、時々掘り起こして、忘れないように、書き留める。
もしくは、描き留める。

きっと、わたしの物語はそうやってできてる。
そんな、掘り起こした「重い想い」の数々。
形になると、ふわっと軽くなる。

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