実家の島から送られてきた蜜柑。突然変異で新しい実がなったのだそうだ。父はこれを「琥珀蜜柑」と名付けた。
父の付けた名前がもうひとつある。「翡翠西瓜」。これもある夏、縞のない西瓜が実ったのだそうで。透き通るうすみどりの珠は正にヒスイだった。冷えた瑞々しいその果物は「冷水」でもあるだろう。うだる暑さに心地よい。
さて本日の琥珀蜜柑。温かみのある朱い実は「コ」、果汁のたっぷりな様は「ハク」の音にふさわしい。甘酸っぱい香りと柔らかな果肉、剥いたとき指に滴る果汁。美味い蜜柑である。突然変異なだけあって、種(しゅ)を残すべく種(たね)も多い。
昨今、余りに増加し過ぎた人口を抑制するために不妊を増進させる、というさまざまの噂を聞く。植物の世界もいろいろな「都合」で、同じ大きさ同じ形、成長増進、種無し….画一的なものが増えてる。同じである事、が求められる。他と違うから豊かであって、また違うから生きようとする。
違うことの美しさ、尊さ。大本は同じでも、現れた具体の様々であること。ここが逆になるといけない。それにこだわってもつまらない。
手のひらに乗る琥珀蜜柑には、随分大きな想いが溢れていた。2年前、そんな蜜柑の物語を描いたっけ。この夏は、翡翠瓜の話にでも想いを馳せてみようか。